2007.07.16 Monday
米教会の児童性的虐待、被害者らと805億円で和解、GO TO HELL
教会の司祭が、児童性的虐待って、お金じゃすまんよね・・
米ロサンゼルスのローマ・カトリック大司教区は、
多数の司祭らが数十年にわたり信者の子どもたちを性的虐待していた事実を認め
総額6億6000万ドル(約805億円)の支払いで被害者らと和解した。そうじゃ!!
教会の司教が、小さな子を、性的虐待するなんて・・
恥知らずの一言ですな。
地獄に落ちるしかないでしょう・・
しかし、
被害者らの心の傷が、お金で癒されることはない。
「たとえ1万ドルをもらっても(性的虐待を受ける前の)10歳に戻ることはできない。いくらお金を積まれても、われわれの悲劇の代償にはならない」
と、被害者が言っているが、しごくごもっともである。
ただ、自分たちのためにも、前を向いて生きていくしかないだろう。
児童性的虐待とは
児童性的虐待(じどうせいてきぎゃくたい、Child Sexual Abuse、CSA)とは子どもに対する性的虐待である。他にも児童性虐待、子どもに対する性的虐待、児童期性的虐待、性的児童虐待などの訳語がある。
なお、家庭内性的虐待については近親姦の項目、FMS論争に関しては虚偽記憶及び抑圧された記憶の項目、児童生徒によるものは性的いじめの項目、児童性的虐待の加害者についてはチャイルド・マレスターの項目、性的搾取に関しては児童ポルノ及び児童買春の項目、少年期における性的行為に関しては子供の性を参照のこと。
目 次
1 子どもに対する性的虐待の定義
2 子どもに対する性的虐待の歴史
2.1 欧米
2.2 日本
3 児童性的虐待の公的な実数
3.1 アメリカ合衆国
3.2 日本
4 性的虐待の真の実数
5 性的虐待の影響
5.1 精神的影響
5.2 性的影響
5.3 幻想的思考
5.4 行動的影響
5.5 対人関係における影響
6 性的虐待と子どもの心理の関連
7 性的虐待を受けた児童の特徴
8 性的虐待の精神医学
9 治療
10 子どもの回復力に関して
11 女児・少女に対する性的虐待
11.1 男性からの性的虐待全般の問題
11.2 女性からの場合
12 男児・少年に対する性的虐待
13 文化的問題
14 ジェンダー論
14.1 性的虐待とジェンダー・アイデンティティ
14.2 マスキュリニティと性的虐待
15 豆知識・注意点
15.1 「性的虐待を受けた人」の呼び方
15.2 文献における誤訳
16 性被害者といわれる人達
17 著名な性加害者
18 出典
19 参考文献
20 関連項目
21 外部リンク
[1] 子どもに対する性的虐待の定義
一般に性的虐待というときには、日本ではいわゆる家庭内児童性的虐待の意味で用いられる事が少なくない。だが欧米では加害者は誰でもよいと認識されている。これは日本と欧米の歴史的風土の違いに原因があり、日本が家庭中心の考え方を行い「子どもは親が育てるもの」という認識なのに対し、欧米では「社会によって子どもは保護されるべきもの」という認識があるためである。
子どもに対する性的虐待の大まかな区分としてなされるのは、接触を伴うものかそうでないかという区分である。
接触のある性的虐待・・・虐待者が自分の肉体(ペニス・指・舌など)の一部もしくは何らかの器具を用いて被虐待者の肉体を刺激・挿入すること(例:ヴァージナルセックス、アナルセックス、オーラルセックス、フェラチオ、アニリングス、クンニリングス、愛撫、ペッティング)、虐待者の性器・肛門を触らせることや、上記のような性行為を被虐待者にさせること、必要のない浣腸の強制、獣姦や売春の強制などである。通常は発覚すれば罪を問われる。
接触のない性的虐待・・・被虐待者の前でマスターベーションなどの性行動をしたり性器を見せ付けること、ポルノを見せること、他人と性的な関わりを持つよう勧めること、覗きをすること、子どもをポルノ写真・映像の対象にすること、子どもに過度に露出した服を着せること、子どもを殴ったり叩いたりする際に子どもを裸にしたり自分が裸になること、叩くことで性的な快楽を得ること、他の子どもの性的虐待シーンを見せること、性的なお仕置きをすること、性的な言葉による心理的虐待(例:性的な話題を行ったり巻き込むこと、性的発達や性的指向や性器についてからかうこと、必要以上に性的なことに興味を示したり質問したりすること、十分大きくなっているにもかかわらず子どもの入浴に興味を示すこと)、世代間・個人の性的境界を侵すような誘惑的な目つきや話をすることなどがある。罪を問われるものもあれば問われないものもある。
密やかな性的虐待は通常性的虐待の定義には含まれず、法的には罰せられないが、この種の性的虐待も重要なサブグループを形成することが明らかとなっている。大人と子どもの年齢差は研究によってまちまちである。かつてアルフレッド・キンゼイは思春期の開始をその上限としたが、性的ないじめも場合によっては性的虐待と呼んでもよい。
なお、日本では「児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)」が2000年5月可決し第2条で「児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること」として性的虐待を定めた。海外の具体例としてカリフォルニア州法PC11165条の性的虐待定義は18歳未満の者に対する性的暴力(性交、近親姦、肛門性交、14歳以下の子どもへのわいせつ行為、口腔性交、器物による性器及び肛門の姦通、性的な愛撫)及び性的搾取(子どもがわいせつな行為を行っているところを描いたものを売買する事、わいせつ行為を目的に子どもを雇用する事、商業目的で子どもにわいせつな行為を行わせる事(写真、映像を含む))を言う。
これは法律上の定義であるが、性的虐待の研究者・団体は様々な定義を用いた。社会学者Finkelhorは「子どもの年齢が13歳未満の場合には5歳以上年上の者との性的接触、子どもが13歳以上16歳未満の場合には10歳以上年上の者との性的接触(性交、肛門と性器の接触、性的愛撫、性的露出など)を性的虐待とする」という定義を用いた。Baker and Duncanは「性的に成熟した大人が自らが性的興奮を得られると思われる行為を、16歳未満の子どもと持つこと」と定めた。Schechter and Robergeは「性的に成熟した大人が、発達的に未成熟で依存的な段階にある子どもと、その子どもがその意味を正確に把握できないような、すなわち子どもにインフォームド・コンセントを与えることができないような性的な行為を持つこと」と定めた。 綜合的なものとしては「同意可能な年齢以下の子どもに対し、性的に成熟した大人が子どもに対する通常の社会的責任を無視し、大人の性的満足に至る行為を持つこと、もしくは他者が持つことを許可する場合を性的虐待という。強制的な方法で行われたかどうか、また行為が性器及び身体の接触を伴ったかどうかは問わない」というStanding Committee on Sexally Abused Children(SCOSAC、性的虐待を受けた子どもに関する常任委員会)の定義がある。
[2] 子どもに対する性的虐待の歴史
[2.1] 欧米
1886年、リヨン大学の法医学の主任教授アレクサンドル・ラカサーニュが「幼女にたいする性的暴行」という論文を発表。同じ年に、弟子のポール・ベルナールが『幼女にたいする性的暴行』を出版。1827年から70年の間にフランスでは15歳以下の子どもに対する強姦及び性的暴行の事件が36176件存在する事を公表した。
1896年にはジークムント・フロイトがウィーン精神医学神経学学会の会合で『誘惑理論』と呼ばれる精神疾患と性的虐待の関連を発表したが完全に無視され、フロイトはフリースにあてた書簡で「奴らはみんな地獄へ落ちろ」と書いた。その後彼は自説を捨ててしまい幼児性欲による幻想に過ぎないとして、この後長らく性的虐待の事実は黙殺される事になった。1932年、フロイトの一番弟子であったフェレンツィ・シャーンドルが性的な心的外傷に関する論文『大人と子どもの間の言葉の混乱』をフロイトの反対を押し切り、学会で発表し論争が起こった。だが、翌1933年に本人が亡くなってしまったこともあり、結果としてこの後50年近くに渡り、性的虐待は幻想にされてしまった。
アメリカ合衆国では、1937年から1940年にかけFBI長官ジョン・エドガー・フーヴァーが国家主義・人種主義・反共産主義を喚起する策として性犯罪者に対し宣戦布告をする。さらに、1953年のキンゼイ報告(調査対象の4分の1近くの女性が子ども時代に大人とセックスをした、あるいはセックスを求める男性に迫られたという報告があった)では社会的な注目を浴び、州議会は特別対策委員会を設置し、新法を制定した。だが、性的虐待を受けた女性が後に影響が残るという証明が出来ないとされ、性的虐待を行う人物が社会的に問題がある以上の説明はなされなかったため、さほど認知度は上がらず、結局は被害者たちは無視されることとなった。
1956年、ヴィンセント・デ・フランシスが児童保護を訴え、この頃から性虐待が概念として一般化しだす。これは性革命が起こった時期と一致する。1950年代後半以降、家族療法が生まれたことでかつて性的虐待を受けた女性が比較的話しやすい状況が生まれ、父親によるものがごくわずかに報告された。1965年にはデ・フランシスは近親姦の用語はより広義に使用されるべきであるとし全事例を性虐待のカテゴリーに組み込み、顔見知りが犯人の可能性が高い事や専門化が必要であり現状はコミュニティ自体が加害者のようになっている事、そして報告数よりも性的虐待ははるかに多い可能性がある事を示唆した。
1970年代にはフェミニスト達による激しい怒りの声が上がる。児童虐待防止協会元職員のフロレンス・ラッシュが性虐待を受けた経験を語り、被害者の身の潔白を訴え、その原因が家父長制にあると主張した。このフェミニストの活動により状況が変わりだす。それまでは父娘相姦は母親の冷たさに一因があるとして母親を責めるということを行っていたのであるが、たとえそれが一因となっていても加害者の責任は回避できないということで、この後に加害者である父親が責められるようになった。だがこの時点であっても報告数が少なく、Freedman,Kaplan and Sadockの1976年の教科書にさえ父娘姦は100万分の1の確率と記述されていた。それに対し1970年代後半は多くの雑誌が児童性虐待の恐ろしさを伝える記事を報道し、報告数が伸びる。また、多くの無作為抽出調査がキンゼイ報告とほぼ同様の「数人に1人程度」の調査結果を示し、パニックが始まる。
だが1983年にマクマーティン幼稚園での虐待(結果的に全員無罪判決が下っている)が報道された後は、それから1990年代初頭にかけて「悪魔崇拝者らの儀式的虐待が国内で多く行われており保育施設などで儀式的で集団的な性虐待が行われている」というような根拠のないデマが広まり保育園などでの性的虐待の可能性に対する社会的恐怖が起こる。この頃は保守派が性的虐待を利用し性開放の立場を攻撃する。また、このどさくさの最中に一部で催眠術やセラピーを通じ記憶は思い出せるというような科学的根拠のない主張に基づき回復記憶運動が起こった。この療法においては親からの悪魔崇拝者らの儀式的虐待という抑圧された記憶を思い出させるケースが目立った。
だが幼稚園・保育園の儀式的な話が本当なのかという事で1990年代初頭から調べられ、幼稚園などにおける「悪魔崇拝者の運営する保育施設における虐待が広く行われている」というパニックには実際には根拠はなく、その根源は仕事を持つ母親や共働きの家庭に対する反発というところが強いとされFBIはモラル・パニックとみなした。さらにここからそういった話を「思い出させて」いた治療者に矛先が向けられ、1992年にFMS財団(=en:False Memory Syndrome Foundation)が設立された。この後、カウンセラーが呼び戻したとされる記憶の中には虚偽記憶による冤罪が存在している可能性が頻繁に報道され、催眠療法やアミタールなど催眠系の薬物を用いて思い出したとする事例の多くが冤罪であったと証明された。
だが、こうした反発によりセンセーショナルな話題は影を潜めたものの、児童性虐待が蔓延しているという疑惑は抜けず、至る所に犯罪者が存在しているのではないかという混乱が残ったため、法律の整備によりこうした事態を防ごうとする風潮がより促進された。そのためミーガン法の整備がこの後に進むことになる。1990年代後半以降はそれまでマスメディアが報道してきたイメージが影響し、事件の性質と性的虐待の現実的な数において激しい混乱が起こった。1998年、シアトルで女性教師メアリー・ケイ・ルトーノーが男子生徒と性交した挙句妊娠し少年の家族となるという全米を震撼させる事件が起こる。この件は法の下で強姦とされた。同情論が一般には強かったのだが、この頃から今までのフェミニズム運動が男性が加害者であって被害者にはなりえず、女性が被害者であり加害者にはなりえないという見方を強化してしまったという批判が表面化する。
さらに、2002年にはボストン・グローブ紙がカトリック教会の性虐待を報道し、教会側が事実を認めなければならない状態となり再び性的虐待に対するパニックが起こりだす。統計上は全く増えてはいないのだがアメリカ中が苛立つ事態となり、様々な性犯罪及び児童誘拐に対する報道は白熱を極め、その年の8月6日にはホワイトハウスでジョージ・ウォーカー・ブッシュ大統領もテロリズムとの戦いに並べて児童性虐待という歪んだコミュニティの問題に対し立ち向かう姿勢を表明した。2003年にはマーティン・バシールのインタビューにより「マイケル・ジャクソンの真実」が報道され、その後マイケル・ジャクソンが少年に対する性的虐待疑惑で訴えられる。この裁判は世界的な大スターということで世界中が注目する裁判となった。多くのマスコミ報道はマイケルは有罪であると報道し、トム・スネドンら検察側はマイケルは有罪であると主張した。だがその主張には矛盾点が多いことをトーマス・メゼロウらの弁護士グループは述べ、2005年6月13日に全面無罪判決が下され、さらに原告は逆に福祉詐欺の罪で2005年8月に訴えられ、2006年11月に原告側が有罪判決を受けた。
[2.2] 日本
日本では1957年9月25日久保摂二により「近親相姦に関する研究」という論文が発表され、これが日本初の近親姦論文とされる。父と娘15例、母と息子3例、兄弟姉妹15例、その他3例を取り上げていたが、この論文で取り上げられたのは性的虐待においても最悪ともいえるものであった。日本では1881年の旧刑法の制定以来近親姦に関して「道徳にゆだねるべき」という立場をとってきたが、1973年尊属殺法定刑違憲事件において近親姦は少女に悲惨な結果を与えたとして問題視された。なお、この事件の被害者には性的早熟や知能の遅れは認められなかった。
さらに川名紀美が1980年朝日新聞で母子姦を取り上げた(『密室の母と子』)。だが、マスコミ報道は事実を正確に伝えられず、反発が起こった。1990年代、性的虐待を取り締まる法律が日本では存在しないことが非難され、結果「児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)」が2000年5月可決。第2条で「児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること」として性的虐待を定めた。
2004年にはジャニー喜多川による所属男性タレントに対するセクハラが一部認定されたが、ジャニーズ事務所がマスコミに圧力をかけたのか全く報道されなかった。こういった現象は日本では多く見られ2002年以降のカトリック教会の事件や裁判の話もほとんど取り上げられなかった。この最中、日本では全ての件に関し無罪になったマイケル・ジャクソンの話が空回りしていた。また、2006年には中学生日記(「誰にも言えない」)で男性教師の少年に対する性的虐待が扱われた。
現在、日本社会において性的虐待に対する認知度は低い。また、なかには性的虐待を受けた児童が保護施設でさらに性的虐待を受ける事例も存在する。教師による性暴力はタブー的存在とされていたが、近年は実態に改善がみられ、行政や各学校においても学校内における性的虐待・セクシャルハラスメントの防止には全力をあげて取り組んでいる。
[3] 児童性的虐待の公的な実数
[3.1] アメリカ合衆国
そもそも性的虐待は表に出にくいため報告数はどんなに努力しても少なくなりがちなのであるが、児童性虐待の先進国アメリカはそれでもかなり報告数を上げることに
成功した。1976年に保護サービス機関に持ち込まれたのは6000件であったが、その10年後には132000件の性的虐待が報告されるようになった。
[3.2] 日本
日本の公的なデーターは事実上低すぎる数値を示している。唯一の公的なデータは「児童相談所における児童虐待相談処理件数」のみである。
児童相談所に寄せられた報告は2004年現在1048件である。だが、警察が摘発したのは2004年でも39件である。
[4] 性的虐待の真の実数
性的虐待の真の実数は多くの調査によって明らかとされている。
アメリカ
キンゼイ報告(1953):女性4441人のうち24%(1075人)が性的虐待を受けている。
ダイアナ・ラッセル(1978)の調査:この調査ではサンフランシスコの女性930人を無作為に抽出し電話調査を行ったのであるが、身体的接触を伴う性的虐待を18歳までに38%(357人)の女性が受けており、さらに14歳までであっても28%(258人)の女性が受けていた[2]。そして非接触を含めると54%にまで数値は跳ね上がった[3]。さらに近親姦被害が18歳までに16%[4][5]、14歳までに12%[5]であった[6]。16%のうち4.5%が父親ではあるが残り12%は別の肉親からであった[7]。性的虐待の程度を最重度(膣挿入、性器接吻、肛門挿入)、重度(膣への指挿入、裸の胸への愛撫)、軽度(強制的なキス、衣服を着たままの意図的タッチング)に分けたが、近親姦の場合23%、41%、36%とそれぞれ出ている[5]。
デイビッド・フィンケラー(1979)の報告:796人の大学生を対象に行った調査。19.2%の女性が性的虐待を報告し、8.6%の男性が性的虐待を報告。
デイビッド・フィンケラー(1984)の報告:ボストンの521人を対象に行い、女性の15%、男性の12%が性的虐待を報告。
Lewis,J.(1985)の報告:18歳までに女性1374人のうち27%が性的虐待を受けていた。男性1252人のうち16%が18歳までに性的虐待を受けていた。
Nelson, Higginson,Grant-Worley(1994)の研究:オレゴンの男子高校生を対象とした研究で、一週間以内に2%の男子が性的虐待を受けていた。
David Lisak,Hoppers and Song(1996)の報告:595人の一般男子大学生を無作為抽出し調査を行った。
「虐待」という表現を排除し、出来事についてのみ質問用紙を配布する形で尋ねた。それによると全体の18%の者は16歳までに直接的な身体接触を伴う性的虐待を受けており、
非接触を含めるとその値は28%にまで跳ね上がった。
家庭内で起こった被害はそれら性的虐待のうち21%であり、初めて性的虐待を受けた年齢は2-15歳で平均10.1歳であった。
その内容は脅迫されたのが36%、明白ではない誘惑を受けたのが43%、自発的に参加したのが22%であった。
加害者は61%が男性、28%が女性、両性からが11%とされた。
また、この調査ではいわゆる身体的虐待を受けた率も調べられた。対象者のうち身体的虐待を受けた者は全体の34%であった。
その加害者の男女比率は男性からが58%であり、女性からが11%であり、男女双方からが31%であり、身体的虐待を受けた者のうち70%が自らの家庭内で受けていた。
また身体的虐待を初めて受けた年齢の平均は7.3歳であった。
さらにこの調査では23%の男性が自分に身体的・性的虐待の加害体験があることを認めている。
だが身体的・性的虐待の男性加害者の79%が身体的・性的虐待の被害者であるとされながらも、その全体の数から見れば身体的・性的虐待の男性被害者が加害者になる率は
19%であった。
さらに、身体的虐待加害者の約3分の1が性的虐待加害者であり、性的虐待加害者の約3分の1が身体的虐待加害者であった。
Harris(1998)の報告:思春期男子3162人を対象に「性的虐待を受けたか」という直接的な質問をし、8人に1人が「はい」と答えた。約3分の1が家庭内で起こっており、
また家族のメンバーによるものが45%であった。
日本
「子どもと家族の心と健康」調査(1998):女性回答者の39.4%が18歳までに性的虐待を受けており、小学校卒業までに性的虐待を受けたのが女性回答者の15.6%であった。男性回答者の10.0%が18歳までに性的虐待を受けており、小学校卒業までに虐待を受けたのは男性回答者の5.7%であった[3]。(日本初の全国調査)
沖縄タイムス(1999)の調査:沖縄県の大学生に対し調査をとったが、全体女性の80.6%が性被害を受けており、強姦・強姦未遂に絞っても15.3%という数値が弾き出されている[3]。男性は男性対象者の28.5%が性被害を受けており、強姦・強姦未遂に絞ってみても2.7%という数値が弾き出された[3]。(これは性被害調査であり、いわゆる「性的いじめ」が多く含まれている)
つまり、アメリカでは女性は3〜4人に1人、男性は6〜8人に1人の被害率であり、日本では女性は2〜3人に1人、男性は10人に1人の被害率とみられている。
[5] 性的虐待の影響
[5.1] 精神的影響
性的虐待を受けた児童は多くが深刻な心的外傷を負う。その症状は、抑うつ、不安、自傷行為、自尊心の欠如である。この原因は性的虐待そのものというよりは、
性的虐待の最中に虐待者によって行われる問題の否認・矮小化・ごまかし・責任のなすりつけ・侮辱などの結果であると考えられている。
男性の場合怒りや憤り、女性の場合悲しみや抑うつといった感情に最初に気づく。
また、斎藤学(2001)によると、父親の近親姦被害女性のうち解離性同一性障害を呈した症例では、MRIでは海馬領域の萎縮とグリア性瘢痕化、
SPECTでは両側側頭の血流不全が見られたという。
また、臨床では過食症や拒食症の患者も多くいるため、摂食障害との関連も指摘されている(斎藤学などが指摘)。
だが、それらに関してはっきりと因果関係が認められている訳ではない。
かつては年齢が低ければ心理的な影響が少ないという俗説が出回っていたが、現在は完全に否定されている。
特に5歳以前の場合には親との同一化がさほど起こっておらず強い感情の統制能力と耐久力が備わっていないため、トラウマに対してうまく対処できないために、
恐怖や怒りといった感情が一気に自我の調整能力を超えてしまう現象が起こることで知られている。
また、性的虐待を受けた人は男女ともにが子どもの自己を迫害妄想的な世界に追いやり、大人の自己はそれらの有害な体験を排除することで統合のまねごとを図ることもある。
[5.2] 性的影響
短期的影響としてはFriedrich(1990)は年齢的に不適切な性的関心や性的行為を示すことを指摘し、これを「性化行動(sexalized behavior)」と呼んだ。
こうした場合、最悪の場合よく分からないうちに性的虐待を行っているケースも少なくない。
こうした行為に至るメカニズムは3つ考えられており、一つは大人との関係をそれ以外の手法で知らないため、もう一つは子どもにとって性的行為が
どんな意味を持つのか分からないため必死に理解しようと努力するため、そして最後にその行為を繰り返すことでトラウマを乗り越えようとするためだという。
長期的な影響としてはセクシュアリティの変容が挙げられ、成人後の性機能障害としては女性の場合は体が急に冷たく感じる冷感症という症状や不感症の症状が表れたり、
男性の場合には早漏や勃起不全などの症状が出るとされる。これは、子どもの頃身に着けた解離性の防衛が性的状況において発揮されている場合に多いといわれている。
性的虐待を受けた場合、性機能障害をきたすか否かにかかわらず、性的な感覚に対する混乱は全般に著じるしいとされている。この最大の原因は官能的興奮が虐待という否定的なもので色づけられてしまっているためとされている。しかも、それにもかかわらず性的虐待により関係がエロス化されてしまっているために、本人にとって親密さを築く方法はセクシュアリティしか思い浮かばなくなっていることが多いのである。
さらに、男女共に売春や援助交際など自らを性的に売り飛ばすような行動が多いことも知られている。虐待的な関係を繰り返してしまう場合もあるが、もし虐待的な関係をそのまま繰り返した場合には、その次の段階としては当然マゾヒズムやサディズムといったものが中心の関係が生まれることになる。リチャード・ガートナー(1999)によると二人のゲイ男性から、自分達の周りでサドマゾヒスティクなことをしている男性は皆性的虐待を始めとした虐待を受けていたという証言が得られているという。
セーファーセックスや、他人を傷つけないことは強調すべきであるが、本人にとっては被害を乗り越えるためのものであることがあり、異常であるという短絡は避けなくてはならない。
[5.3] 幻想的思考
性的虐待に遭った人の考えることが神話的で宇宙に飛び出したようなものになることもあることもカール・グスタフ・ユングにより指摘されている。
彼は兄にレイプされた女性を診断しているが、その女性にもこのような症状が現れた。彼女によればこの世は汚れているが、月の世界は美しく豊かであるという。
月の高山には女や子どもをさらう吸血鬼が住んでいて人々は絶滅の危機に瀕していた。
そこで彼女は吸血鬼を倒す計画を立てたのであるが、そこに現れたのはこの世のものとは思えない美しい男吸血鬼で、彼女を連れて一緒に飛び立ったのだという。
これに関してユングはインセストは地球上では認められず、社会から阻害されるものではあるが、神話世界ではそれは逆転し、インセストは高貴な人の行うこと
とされるためであると述べている。このような話はグノーシス主義の神話に近いといわれる。
このような現象はメディア作品でも取り上げられる事も多い。Scott Heimの1995年の小説『謎めいた肌(Mysterious Skin)』では男性に被害を受けた少年が記憶を失い、
それによって自分はその間宇宙人に誘拐されたのだと解釈し、その後UFOに関する情報を集めている。
この小説では、解離による記憶の欠損を「何か特別なことなのだ」と思い込み、創造的に再解釈している。だが、思春期後期になり段々と解離の効果が失われてきている。
そもそも解離は異常とみなされがちであるが、実際には大抵の文化ではそうではなく、それどころか特別な能力を持つ人物として扱われる。
イスラム教の聖典クルアーンの第17章「夜の旅」にすら解離現象らしきものは見出される。
Hegeman,E.(1997)は488の文化のうち90%に文化的に許容された解離現象が見出された事を報告している。
精神障害の診断と統計の手引き(DSM-IV)のDDNOSの項目ではこのようなものは解離性障害には含めない旨が明記してある。
だが、現代社会ではこのような適応を持つ人は社会の辺縁に置かれがちである。
[5.4] 行動的影響
行動上の問題もある。短期的影響としては家出や反社会的行動、不適切な怒りや敵意、学校での行動上の問題などがその直接的な影響として表れる。性的虐待を受けた人間は同性間の友情関係を児童期・思春期に持つ事はできず、ある面では自分は非常に大人だと感じながらも、ハリー・スタック・サリヴァンのいう親友の癒しの力を奪われている事が多い。さらに前述のように、不安・抑うつなどの症状が激しいため、自分の困難を気づいてもらいたいと、不潔な格好をしたり、風変わりな行動をしたり、幻想的であったりして同じ年頃の子どもとは距離をとる場合が多い。
法務総合研究所(2001)によると、少年院の調査では家族以外により強制的に性交された例は女子68.6%、男子7.3%、家族による強制的性交は女子4.8%、男子0.3%であった[4]。平成13年4月の厚生労働省の「性的搾取及び性的虐待被害児童の実態把握及び対策に関する研究班」の調査によれば、刑務所に収監された女性受刑者の7割以上が18歳までに性的虐待を受けており、3割はレイプなどの深刻な被害であり、2割が近親姦であったという[11]。さらに、男性の性的被害の研究者であるLisakは死刑囚の多くから性的虐待の被害歴を面接の中で聞き出している。
[5.5] 対人関係における影響
フェレンツィ・シャーンドルが1933年の著書『大人と子どもの間の言葉の混乱』で書き残したように、性的虐待を受けた場合「優しさ」と「情熱」を表す言葉の間に混乱が生じることも知られている。虐待を受けた人たちにとって「セックス」「愛情」「慈しみ」「親愛」「虐待」は全て感覚としては同一である。この結果として人間関係における経験を誤認してしまい、性的かつ虐待的なものがそのまま愛情として認識されたり、逆に喜ばしい関係性が虐待的だと感じるような歪んだ認識が生まれるのである。
親や養育者など親のような相手から性的虐待を受けた場合、裏切り者で頼りにならず、信用できない権威者像を内面化する。そのため、愛着形成能力は著しく損なわれ、自分が好きになったり頼りにした人間たちからは必ず裏切られるという感覚を持つようになる。その結果として、性的関係は愛ではなく権力に基づくと考え、恋人に対して支配/被支配の単純構図しか持てなくなってしまう。また一方で人間関係に伴う不安をこれを受け流す方法として、人との付き合いを形式的で感情の伴わないものにしようとする。夫や妻に満足させるようなセックスをさせようとしないことはこの一例である。
こういったものは虐待時に矛盾したことを言われ続けたことに原因があるといわれている。例えば「大人を信じろ」という教えは多いが、これは性的虐待を受けた場合「性的虐待に耐えろ」というメッセージにすりかわる。また、脅迫や力を用いて虐待を行いながら「愛している」などと言えば、暴力こそが言葉上の愛となる。
また、虐待の責任は自分にあると思い込む人は少なくないが、こうした場合何でもかんでも自分のせいにしてしまいやすい。自分に何が起こっても、周囲がどんな心理状態にあろうと、全て自分に責任があると思い込むのである。こういった場合、例えば職場で何かが起こっても、それを人のせいだとは全く考えず自分のせいだと思い込み不安反応をきたしたりする。
[6] 性的虐待と子どもの心理の関連
加害者と被害者が成人である場合大抵は身体的もしくは精神的強要があるのが普通であるが、子どもが虐待されている場合には一見すると同意しているような場合も少なくない。だが、この関係性の軸において「同意」などということはありえない。子ども達にはその行為について理解する能力が存在していない。だが、これを利用して大人達は子どもを簡単に従わせてしまう。そのため、不幸にも子どもたちは自分に責任があるように思い込んでしまうのである。
いくら子どもたちが望んでいるように見えたとしても、全く同じである。望んでいるように見えたか否かに拘らず、性の自然な発達過程を阻害され、無理矢理性に目覚めさせられることは、子ども達の子ども時代そのものを奪ってしまうのである。
菅原昭秀(1990)は大阪府児童相談所で扱った女児39人(加害者はうち37人が父親、叔父が1人、母親が1人)のうち33人が性的虐待に対し拒否的な反応を示してはいたが、その虐待者本人に対して否定的な反応を示していたのは18人に過ぎなかったという報告をしている。残りの21人のうち、5人は拒否をしつつも同情的な態度、13人は曖昧な態度、3人は肯定的な態度をとっていたという。
近親姦の体験者は虐待の犠牲になったという認識そのものは正しいが、その心の深層には緊密で複雑なアンビバレントな関係がある。多くの子どもは虐待者に対し愛情と憎しみが複雑に絡み合った感情を抱くが、これは性的虐待を受けた人に激しい混乱をもたらす。憎しみか愛情のどちらかの面を取り解決しようとすることも多いが、この場合突然愛情が憎しみに変わったり、憎しみしか感じることができなくなったりする。
また、こうした被害を受けた人をさらなる混乱に陥れているのは文化的な問題によるところも大きい。もともと近代文明はそういった現象を抑圧し続けてきたため、必然的に性的虐待を受けた場合社会から阻害されてしまうような感覚に襲われてしまうことが多い。こうした場合、性的虐待が存在しないことを想定されて作られた文化的価値観を内面化していればいるほど心理的な被害は大きくなってしまう。こうした社会のメッセージによる子どもの心理的反応のことをFinkelor and Browne(1985)は「烙印押し(stigmatization)」と呼んだ。
性的虐待のトラウマの度合いは、その個人の主観的体験に依存する。そのため、ある人は外部的に見ればひどくトラウマティックな体験をしてもトラウマにならなかったり、ある人は外部的には大したことでなくともトラウマになる。そのため、まれではあるものの性的虐待を受けているにもかかわらずトラウマになっていない場合も存在する。だが、だからといってその行動そのものが虐待的でなかったということにはならない。さらに、男性に多いが明らかに性的虐待による重度のトラウマ症状を呈しているのにもかかわらず、自身のトラウマを否認している場合が多く存在することも知られている。
また、刺激に対して身体が反応してしまう場合が少なくない。こうした場合、女性の場合は快感を感じたことで自分自身が罪深いのではないかと思うことが多く、さらに男性の場合には自分の身体の勃起や射精とかいうものは自分の力でコントロール出来るものであるという自信がそのまま打ち砕かれる。人間の身体は生理学的にそのように出来ているため、これは自然な反応なのであるが、本人たちにとって見ればこうした現象はそのまま自己への不信へと繋がるのである。
また、大抵子どもは「自分に責任がある」と思いやすく、性的虐待を受けた子どもが親がおかしいことを訴えることはそのまま自分を訴えることとほぼ同じことになる。フロレンス・ラッシュは「被害者が加害者を告発すれば、自分自身をも告発する事になる。だからこそ児童性虐待は世界でもっともよく守られている秘密なのである」[12]と述べている。子どもため、子どもはなかなか誰にも被害を言えないのである。子どもが話すだろうと思う人も多いが近親姦(的行為)を受けた子どもの多くはこのために話すことはない。
[7] 性的虐待を受けた児童の特徴
小学児童は訴えることが出来ないため見分けるためには大人の認識が非常に重要となる。性的虐待を受けた児童には時に以下のような特徴が現れる。
腹痛を訴える(性行為自体の痛みの反映)。
咽頭痛(オーラルセックス強要の苦痛の反映)。
胃痙攣(トラウマに対する反応)。
口が半開きで、どこかぼーとしていたり、あるいはいつも窓の外を眺めている(解離症状が悪化し始めている場合など)。
一日中マスターベーションを行っており、授業中もノートを取るときも触っている(一種の性的脅迫行動、なお児童のマスターベーション自体はまったく異常ではないので注意)。
食欲不振(一種の拒食症)だったり、痩せているのに給食を何杯も食べたり(一種の過食症)する。
その他にも、性的な恐怖が原因で次のような行動を起こすこともある。
夏でも長袖を着る。
林間学校や修学旅行において公衆浴場に入ることを拒否する。
公衆トイレを使用したがらない。
身体検査で服を脱ぎたがらない。
また、大人に対して挑発的だったりすることもあるが、大人が怒ったりしてさらに被害児童を追い込んでしまうことが多い。さらに、子どもっぽいのに一部で妙な大人びた感じ(「偽成熟」と呼ばれる現象)があるのも性的虐待の場合特徴的である。だが、こうしたサインは大抵ありえないという思い込みで見逃されたりする。
[8] 性的虐待の精神医学
本項目:複雑性PTSD
現在トラウマによる後遺症全般がPTSDという言葉で流通しているが、性的虐待の後遺症は愛着の持ち方、人格形成など広範な影響が認められ、精神障害の診断と統計の手引き(DSM-IV)に載っていたPTSDとは明らかに異なっていた。そのため、DSM-IVに載っている戦争や事故などによるものは単純性PTSDと通称し、それに対しレイプ体験など複雑な体験によるものは複雑性PTSDと呼ぶことを治療者らは提唱した(DSM-IV-TRでは一症状として取り上げられた)。もしくはこれを指してDESNOS(Disorder of Extreme Stress not otherwise specified)と呼ぶ研究者もいる。研究者はジュディス・ハーマンやvan der Kolkがいる。
[9] 治療
精神疾患、解離性同一性障害、深刻な人格障害のある人は現実を見失っているケースもあり、治療は困難を極める。解離した記憶や感情が蘇ってくることや、長期の鬱、不安反応や性的強迫観念を抑えるためには睡眠薬や抗うつ薬が非常に役に立つ。
心理療法では、外傷的解離の働きによって未だ言語的にコード化されていない記憶情報をコード化させる作業が行われる。この方法においては、患者が治療者を性的感覚を感じる転移及び治療者が患者に性的感覚を感じる逆転移の問題、コード化される際のトラウマの再演の問題もあるが、方法自体として間違っているというのではなく、それらは治療の手がかりとなる。
一方、女性のグループ治療はジュディス・ハーマン(1992)が提唱している。その目標は最初は現在の安全を確立する事、その次に自らのトラウマに焦点を当てる事、最後が自己や他者に繋がりを持たせる事であるとしている。
また、多くの被害を受けた人はその回復過程で全てを虐待のせいにしようとするが、実際には全てが虐待のせいであるとはいえない。こういった考えはトラウマに対し少年少女が多種多様な反応を示す事を無視している。さらに、トラウマがすでに過去のものになっている以上はそこから癒えるということもありえない。出来る事はトラウマに対応しとり続けている態度の改善である。
[10] 子どもの回復力に関して
幼児期のトラウマは一生その人を囚われさせるわけではない。実際強姦犯や精神病を患っている人、犯罪を犯した人にこうした過去がある人が多いのも事実であるが、性的虐待を受けようと回復する人はいくらでもいるのである。
Conte,J.R.(1985)は性的虐待を受けた369人(76%が少女、24%が少年)について調べたが、性的虐待に伴う症状を示すのは79%と多かった。しかし残りの21%は起こしておらず、どうして問題を起こらなかったかについて調べられたが、その重要な因子は虐待の事実を認め支えてあげた大人が一人でも存在していた事であった[8]。
この他にも、多くの研究で秘密を打ち明ける能力と回復力とが比例関係にあることが分かっている。
[11] 女児・少女に対する性的虐待
[11.1] 男性からの性的虐待全般の問題
女性に対する性的虐待の問題は全般的にジェンダー論が絡んでおり、フロレンス・ラッシュらフェミニズム系の多くの人はレイプ及び児童性虐待というのは女性と子どもを無力化する装置であると主張した。つまり、こういった場合ネガティブな意味で女性性を思い知らされてしまうのである。
被害を受けた人は父権制と男性性が混合しており、男性を理想化しては現実に合わないためにこき下ろし、複数の男性関係を持ちながら唯一の愛を求め純粋になろうとする。だが、こうした女性は男性たちからは悪く言われがちである。
また、Graham(1994)によると男性に強く依存しながらも、男性に対して恐怖を抱くような社会一般に考えられている女性像というのは、性的虐待などのトラウマを長期にわたり受けてきた女性の特徴とも合致するという。彼女は人質事件の被害者が犯人に愛着を示してしまうストックホルム症候群の概念を発展させ、より広範に当てはまるとして「社会的ストックホルム症候群」と名付けている。
また、Perry BD(2000)によると生物学的に男児の場合はトラウマを負った場合過覚醒状態を起こす可能性が女児より高いのに対し、女児の場合は男児よりも解離を起こしやすいと報告している。
こうした場合、女性は良妻賢母の道が絶たれたと思いファム・ファタールを目指したり、自己犠牲的な道に走ったり、良妻賢母の夢だけを見続けたりと反応は様々である。こうした複数のパーソナリティ・タイプが一人の人間の中に混在し続けると、結果的に解離性同一性障害をきたすこともある。
[11.2] 女性からの場合
これに関しては最も研究が遅れているといえ、今後の研究が期待される分野でもある。これに関してはホモフォビアや、性的指向・性的同一性の揺らぎなどの問題が指摘されている。
あまりないと思われがちであるが女子生徒と44回にわたりレズビアン行為を行った女性教師もきちんと存在する。
[12] 男児・少年に対する性的虐待
本項目:少年への性的虐待:女性による性的虐待
男性が性被害に遭う率は女性よりも少ないが、女性以上に被害に対して認識しようとしていないケースが多く見られる。このため、彼らは本当にトラウマを負っていないのか、それともただ否認しているだけなのか、多く疑われる。また、男性女性双方から多く被害を受ける(Lisak.et.alの報告では被害率は男:女=2:1)が、男性からの方が報告されやすい傾向がある。
[13] 文化的問題
ミシェル・フーコーは性は本能ではなく文化であり、現代には「言説の扇動」なるものが存在し、セックス及びセクシュアリティにまつわる話が権力の装置として機能することを指摘していた。これに関係し様々な話がある。
権力とセックス
児童性虐待には権力とセクシュアリティの関係が非常に混乱して結びついていることが知られており、古代アテネにもその傾向は見られる。現代は美化されてしまっているがギリシャにおける少年愛は決してお互いが愛し合うというものではなかった。アテネ市民は少年、女性、奴隷、外国人ならば誰でも犯してよく、それは結局のところ「貴方は私のご主人様です」という事を証明しているに過ぎなかったのである。欧米において現代でも自分が受動的な人間であるという事に対する恐怖があるのはこの古代アテネ人の感性によるものではないかというDavid M. Halperin(1989)の意見まで存在するくらいである。
トラウマと文化
Gilbert Herdt(1981)はザンビアンと名づけたニューギニアの一種族を挙げているが、それは年長の男性の精液を飲めば男らしくなれるという文化的価値観がある文化であった。近代文明に住む一般の人ならばこれを性的虐待というのは間違いないが、一般にトラウマというのは、それが秘密にすべきことであればあるほど、またそれが文化的に逸脱していればいるほど重度になる傾向があるので、これはトラウマにはなりにくいのである。
性の開放
ヴィルヘルム・ライヒは近代にかけて性が否定されてきた事を理由に「性の解放」を訴えた。彼の説によると大宇宙には物理レベルで性のエネルギーが偏在しており、それが生命のエネルギーとなっているという。それをライヒはオーガズムから名前をとってオルゴン・エネルギーと名づけた。そしてオルゴン・エネルギーの停滞や不足が様々な病気を引き起こすとし、癌の治療のためにオルゴン・アキュムレーターを開発した。(だが、オルゴン・エネルギーはオルゴノミスト以外には証明されていない)
[14] ジェンダー論
[14.1] 性的虐待とジェンダー・アイデンティティ
性的虐待を受けた場合、女性ならば女性らしくあることの負担、男性ならば男性らしくなれないことの苦痛がもたらされる。
普通ならばこうした場合男性らしさや女性らしさを自ら定義しなおすのが望ましいのであろうが、性的虐待を受けた人たちが自身の内部に持っているのは普通の人よりも
さらに伝統的な男性性/女性性の概念なのである。こうした伝統的概念がたとえ根本から変えることはできなくとも、事実上は非常に移ろいやすいものであることを
認識させることが本人にとって重要となる。性的虐待からの回復期には彼女/彼らの内面化された男女二分法が脱構築されることが知られている。
男性と女性の違い自体は存在するが、男性らしさとか女性らしさとかいったものが少なくとも文化的に構築されたものの影響を受けていることは多くの人が認めている。
そもそも生物学的性は女性と男性で一対になっていると一般には思われがちであるが、実際にはこの段階ですでに怪しい。
性的少数者の存在は女性性/男性性の二分法に鋭い意義を唱えているとする意見もある。
性的少数者のシンボルカラーは虹であるが、これは典型以外の様々な状態が全てあるからこそ性別というものは美しく輝くという考えに基づく。
[14.2] マスキュリニティと性的虐待
男性性(マスキュリニティ)は男性による性的虐待の助長と、性的虐待を受けた男性の回復の障害の両面を作り出す一因とされる。
男性性は性的虐待の問題に留まらず様々な問題を引き起こしていることで知られ、例えばアメリカ軍においては男性的徳目に基づき残酷な訓練が行われている。
男性らしくあることは、凄まじい心理的・社会的ストレスをもたらすものであり、それ自体が外傷的であるといえる。
ネガティブな側面も持ち合わせている男性性であるが、社会レベルでは男性性は多くの効用をもたらしていることで知られる。
男らしさの理想に合わせる人が多い場合、さほど厳しくない環境において限られた資源を求めるには向いており、適応には優位である。
これらは個人的なレベルにおいては強い責任感、忠誠心、逆境での踏ん張り、粘り強さ、決意、耐久力をもたらし、これらは全て価値のあるものである。
しかし、それを考慮してもなお意見は多い。それは、これらは別にジェンダー役割と結び付けなくても達成しうるものであり、他に持ちうる人間的素質を犠牲に
しなくても獲得できるものであるためである。そのため男性の社会化過程により大きな変化が必要だという提言も多く挙がっている。
[15] 豆知識・注意点
[15.1] 「性的虐待を受けた人」の呼び方
性的虐待を受けた人は「性的虐待を受けた人」であり、それが最も中立的な呼び方である。
他にも「被害者」「サバイバー」という呼び方がある。「被害者」は被害を受けた重大さを物語るにはよい言葉であるが、永遠に被害から立ち上がれないようなニュアンスがある。また「サバイバー」という呼び方は被害を受けながらも生き残ったようなニュアンスがあるが、今度は逆に被害の重大性を矮小化してしまうようなニュアンスもある。
さらに被害を乗り越えた人のことを「ウォーリアー」と呼ぶ人もいるが、そもそも何をもって「乗り越えた」というのかはっきりしない。「経験者」とか言うこともあるが、これでは単に性的行為をされただけのようなニュアンスになる。
学術的にはやはり本人の独自性を損なわないためにも「性的虐待を受けた人」というのが最も適切なようである。
[15.2] 文献における誤訳
よく、「under the age of XX」が「XX歳以下」と訳されることがある。だが、これは「XX歳未満」であり「XX歳以下」は誤訳である。わずか1歳であるためそれほど問題とはならないが、将来的には統一する必要がある。(こうした事情から多くの文献では「XX歳まで」の表現を用いている)
[16] 性被害者といわれる人達
マリリン・モンロー(里親)
内田春菊(養父)
テリー・ハッチャー(叔父)
男性については少年への性的虐待の項目を参照のこと。
[17] 著名な性加害者
島崎藤村
妻を亡くした後、子そもの世話のために住み込ませた姪と近親相姦をおこない、彼女を妊娠させて社会的に指弾され、留学という口実でフランスに逃亡。
帰国後、この体験を基に小説『新生』を執筆した。藤村の父もまた異母妹と近親相姦の関係を結んでいたことが知られている。
ローレンス・ダレル
娘サッフォーと近親相姦をおこなっていたことが、サッフォーの自殺後、彼女の日記から明らかになった。
[18] 出典
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^ 『家族の闇をさぐる現代の親子関係』(斉藤学、2001)ISBN 4-09-387247-3
^ THE GREAT INCEST WAR: MOVING BEYOND POLARIZATION
^ a b c d e f g h i j k l m n 『少年への性的虐待 男性被害者の心的外傷と精神分析治療』(リチャード・B・ガードナー、宮地尚子ほか訳、2005年)ISBN 4-86182-013-8
^ Chapter One Introduction(PDFファイル)
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『多重人格』(和田秀樹、1998)ISBN 4-06-149390-6
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『児童虐待』(池田由子、1987)ISBN 4-12-100829-4
『ユングの心理学』(秋山さと子、1982) ISBN 4061456776
[20] 関連項目
性的虐待
児童相談所
家庭内暴力
児童養護施設
悪魔崇拝者らの儀式的虐待
子供に対する性的虐待を扱った小説
子供の性
少年愛
ペドフィリア
エフェボフィリア
強姦罪
強制わいせつ罪
児童虐待の防止等に関する法律
高齢者の虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律
児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律
痴漢
性教育
[21] 外部リンク
JUST
日本サバイバーサポーター連合
女性ライフサイクル研究所
S&S ネットワーク
子どもの性的虐待について(女性の個人サイト)
If He Is Raped(性的虐待に遭った男性らの個人サイト)
Male Surviver(英語)
シドラン財団(英語、PTSDや多重人格に関しての情報サイト)
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